
第2章 一石を取る
囲碁は、戦いを伴うこの種のゲームのなかでは、攻守両方の打ち方が選択でき、比較的おだやかなゲームと言えますが、地取りゲームである以上、いずれ、どこかで接近戦が起こります。
接近戦では、一石ないしは数石が取ったり取られたりという戦いが、繰り返し行われがちです。
囲碁で相手の石を取る基本を、「四つ目殺し」と呼び、相手の孤立した一石を最少の石(といっても物理的に四石を要する)でもって攻め取ることを言います。
四つ目殺しの説明にはいる前に、囲碁の基本である、石のツナガリと切りについて説明します。

上図中央の黒石一石は、線を通じて隣接する交差点(B・D・F・H点)に所在する自軍の石とはダイレクトにつながります。
また、筋向いの交差点(A・C・E・G点)の石とは直接にはつながりません。 言いかえれば、建物があって見えない筋向いの交差点とは、直接にはつながらないと言うことです。
例えば、中央の黒一石が、筋向い交差点の黒石Aとつながるためには、隣接交差点のBまたはHに黒石が存在することが条件になります。
裏返せば、中央の黒石とAの黒石とは、BおよびHに白石を置かれた時点で、切れるということに他なりません。
したがって、中央の黒石とAの黒石が直接つながっておく必要があるときは、Bに白石がくればHに黒石を、Hに白石がくればBに黒石を打つ必要があります。
以上のことを整理すると、味方同士の石がつながるためには、
「石は線(連絡街路)を通じてしか、味方の石とつながらない」ということになります。

図のカギ形につらなった白石は全てつながっているのに対し、黒石は白△によって切断されています。
仮に△の白石を黒石に置き換えれば、逆に白石が切られることになり、立場は逆転します。
石の「切り」と「ツナガリ」は、「死活」とともに、囲碁において最も重要なゲームポイントです。
石が、互いに連携して有機的に働くか、バラバラになるかの結果は、明らかですね。
四つ目殺しとは、物騒なネーミングですが、ことは簡単で、相手方の独立した一石を、その一石に隣接する「四つの交差点」の全てに、自軍の石を打つことにより、相手の連絡経路を完全に断ち、相手の石を取り上げることを言います。
それでは、四つ目殺しの実際を、手順をおって説明しましょう。戦場実況中継風に。
イ 碁盤目街区の街角で
戦いが始まって数日が経過し、街角には人影一つありません。
遺跡のど真ん中に、一人たたずんでいるような錯覚に襲われます。 ロ 交差点に白石兵が一人
あ!何処からともなく一人の白石兵が石音もなく現れ、とある交差点に立ちました。

この交差点の哨戒、というよりも、死守を命じられたもののようです。
そう言えば、ここ囲碁と呼ばれる戦場では、兵士が一旦配置についた限りでは、一切の移動は認められないと聞いています。
それにしても、敵味方が交錯する、ここ最前線での、単独守備とは、大胆不敵であり、援兵が控えているならばともかく、孤兵とは辛い限りです。
ハ 一人の白石兵と一人の黒石兵が

果たせるかな、西隣の交差点に敵黒石兵が現れました。
お互い、現在点の死守を命じられているため、動くに動けず、一街区をへだてて、ただ、じっとニラミあっているだけです。
ニ 二人の黒石兵

おっと、さらに北隣の交差点にも黒石兵が現れました。
残る希望は東南からの援兵ですが、他戦線の急迫により望み薄のようです。
ホ 三人の黒石兵が
これは大変です。三人目の黒石兵が南隣の交差点に現れました。

友軍との連絡路は、東しか残っていません。
司令部の状況把握が、遅れているようです。
いずれにせよ、囲碁戦では配置点での死守が絶対で、退却は許されません。風前の灯火です。この状態を「アタリ」と言います。
ヘ 四人の黒石兵に
ついに、四つの連絡路の全てが、閉じられました。
万事休すです。
援兵との連絡路は全て閉ざされました。
ト 兵卒の死

全てのつながりを断たれた中央の白石兵は、孤軍奮闘もむなしく、戦場から葬りさられ(打ち上げられる)、死兵として、黒石軍の捕虜になりました。
*打ち上げた石を、「アゲ石」または「アゲハマ」と言い、対戦終了後の地の計算で、相手側の地に埋め戻されます。
したがって、アゲ石一目(モク)は、相手側地の一目減になります。 ◆ポン抜き三十目
四つ目殺しは、孤立した一石の取り方としては最も効率的であり、どの一石が欠けても取れないし、必要最小限の石で取ったという点に、価値があります。
しかも、取った四石の形が、非常に弾力に富み、その周囲に及ぼす影響がきわめて強いという点でも、最大級の評価が与えられるものです。
もし、打ちはじめの早い時期に、この形が中央付近に出現したならば、その碁は、四つ目で打ち抜いた側の勝ち、と断言しても良いほどのものなのです。
四つ目殺しの形を、別名「ポン抜き」とも言います。
気持ち良く、ポンと抜くところから出た、ネーミングだと思われます。
このように、ポン抜いたあとの形が美しく、その威力も絶大なところから、俗に「ポン抜き三十目」と言われます。
その意味は、ポン抜いた形が、地三十目に相当する大きさであるというところから来ています。

上図は、ポン抜きに準じる形で、A点の白石を、取るには取っていますが、ポン抜きに較べ、左肩に余分な一石黒△が付いており、その分だけ効率が悪くなっているので、ポン抜きとは言いません。